入野谷在来種の復活への活動記録

信濃一号と長野県内在来種

信濃一号は、福島在来の系統選抜によって昭和19年に開発され、粒が大きく収量や耐病性が優れているため、戦後全国的に普及しました。長野県内もこの信濃一号が収量の大半を占めるようになり、従来から県内各地区で作られてきた在来種は、奈川在来 戸隠在来など5品種程度を除いて絶えてしまいました。

信濃一号普及以前には、県内各所で多種の在来そばが作られていたわけですが、なかでも江戸時代には戸隠、川上、入野谷(長谷三義の谷)は蕎麦の三大名産地として江戸までに名をしられていました。戸隠在来はいまでも栽培されていますが、川上はレタス中心になり在来絶滅とみられ、入野谷も在来は見たことがありませんでした。たまたま、在来と言われる蕎麦を見ても、粒が大きく信濃一号との交配があると見られるものでした。

粒も小さく収量性が低い在来種ですが、「昔の蕎麦は旨かった」という声もよく聞きます。また、伊那地区オンリーワンの味は地域活性化になり、地域独自の味を後世に伝えることは文化の伝承でもあります。 なんとか高遠独自の在来種を見つけられないかというのは、高遠のそば関係者にとって平成23年ころよりの高遠そば組合での話題の中心となりました。

紆余曲折はありましたが、2016年12/6にはこの在来種の試食までこぎつけました。以下は栽培増殖できるようになったその経過です。全国各地の在来種発見普及に役に立つかもしれません。

2014 H26年7月 長野県塩尻花き試験場で「浦在来玄そば20G」見つけ増殖を依頼。
2016 H28年7月 試験場にて年2回の増殖を2年行い、1KGまで増やす。
2016 H28年7月 長谷の浦の圃場に100Gを播種
2016 H28年9月 浦18KGの収穫
2017 H29年7月 浦圃場に1KGの種を播種
2017 H29年9月 約36KGを収穫
2018 H30年7月 浦、杉圃場 計2反5畝に播種
2018 H30年9月 60KG弱の収穫
2019 R1年7月 浦、杉島、柏木圃場 合計7反9畝に播種
2019 R1年9月 浦17.1KG、杉島90.7KG、柏木392.8KG収穫
2019 R1年11月 伊那市内6店舗で一般販売開始。

以下の記録は、飯島伊那市会議員の日誌によります。

在来種復活経過 飯島市会議員の日誌より

平成24年秋 きっかけ

奥蓼科のそば処遊楽庵を、高遠そば組合のメンバー五人(飯島、守屋、山根、伊藤、赤羽)で蕎麦の機材を借り受けるために訪れました。当所には故氏原信大名誉教授の研究室があり、そこには蕎麦に関する資料とともに、世界各地から集めた膨大な蕎麦の種のコレクショがありました。その中に高遠在来、長谷在来というそばの種もあったのです。これには、全員興奮しました、こりゃ在来種が見つかる可能性はあるなと。。この蕎麦のたねコレクション自体は長年の常温保存なので、発芽の可能性はゼロに近いのですが。

平成26年 在来種発見

長野県農政課に、「もし在来種があるとするなら何処が可能性が高いか」電話して聞いてみると、塩尻の長野県野菜花卉試験場はどうかと教えてくれました。すると試験場に高遠在来、長谷在来の2種類が保管されていることがわかりました。

平成26/7/27 県野菜花卉試験場丸山研究員訪問

高遠在来は、封筒に入ったわずか20g、封筒には、高遠入野谷「浦」2004年7月14日と記されあった。

長谷村在来は、1992年と記されたものが2kg保管されていた。浦で採取されたものはわずか20gであることから、この在来種の花卉試験場での増殖を丸山さんに依頼、こころよく引き受けてくださった。

平成26年/年末
初年度、20g中発芽したのはわずか6粒との報告を丸山さんより受けました。

平成27年 花卉試験場での増殖

27年10月8日 野菜花卉試験場 谷口さん訪問
浦在来は春巻きで300g、夏蒔きで200g 合計500gになった。もう一年試験場にて増すと1kg以上にはなりそう。

平成27年12月8日
そばは昆虫による他家受粉のため他品種との交配を避けるためには、最低2kmの範囲に蕎麦が作られていないことが必要。また、原種として増やすのは、元々種が採取された長谷の浦が最適ではないか。ということで浦の公民館にで地元の方に話を聞いていただき、現地を確認。地権者の確認と交渉を池上総合支所長にお願いしました。

平成27年12月18日
池上支所長より地権者の了解が取れたとの報告。

平成28年 浦圃場での増殖

平成28年3月17日
信州そば発祥の地伊那そば振興会 第一回定期総会
そば振興会の事業として在来種復活に取り組むことの了解と了承。

平成28年4月5日 信大井上教授に協力依頼
富山農林部長、飯島と信大農学部井上教授、田多井特任教授と面会し浦地区での在来種復活のアドバイスと協力を依頼。飯島「県野菜花卉試験場に高遠在来(浦在来)のそばが保管されており、試験場で増やしたものを今年300gいただける。長谷の池上前自治区長とも相談し長谷の浦で栽培することとしているが、貴重な種であり、失敗できないので、井上先生のご指導をいただきたい。井上教授「自分も三義地区赤坂で在来種の栽培をしていた。栽培していく上で重要なことは、土の窒素分があることと、獣害対策である。肥料は、「IB肥料」で良い。一番のコストは、鹿柵せっちひようではないか。また、最近の豪雨も大敵である。」

平成28年5月30日 午前9時より 浦現地確認
浦の圃場において第一回の耕起茶寮の予定。しかし、あいにくの雨模様で現地確認に変更。霧のかかるロケーションは幻想的。

平成28年6月1日 晴れ 在来種の種の受取
県野菜花卉試験場で、入野谷在来の趣旨300gを受け取る。帰路 高遠町の上空に前途を祝福するかのような虹がでていた。

平成28年6月10日 午後1時 晴れ
井上先生に現地圃場と玄そばを見ていただいた。土壌分析。池上さんには二回目の耕起をしていただいた。高遠支所に戻り、状態の良い春蒔きの種の中から小粒で色の黒い種子150gを選別し信大に持ち帰り、ポットで育て双葉が出た頃、圃場に移植する計画。

平成28年7月7日 午前9時半晴れ
鹿柵設置作業と浦の住民との懇談会(参加者20名)浦の小松さんよりそばの話を伺う。浦は標高が1100mを超え、霧が里より早くくるので8月に播種をしたいのでは遅い。井上先生と競技をし、7月20日午後2時から第一回播種作業。翌週27日10時から第二回播種作業と決める。

平成28年7月14日 午前10時 雨
池上、飯島両名で圃場地権者小松さん宅を訪問。小松さんには今後のこともあり、書面で契約したい旨の話をする。小松さんからは快諾を得たので、後日書面での契約を交わすこととした。

平成28年7月20日 午後二時 晴れ
第一回在来種播種作業。70センチ間隔に筋を作り、IB肥料を施肥したあと、10センチ間隔に在来種の種を1~2粒播く。300gのうち100gをまき、残りは保存。

平成28年7月21日 
井上教授とゼミ信大生「鳥避けの3種類の線を張りました。猿が4匹クルミの木を伝わって入っていたので切りました。仕方がないので、ご了承願います」「猿の集団がいたが、威嚇したので大丈夫でしょう。」とのこと

平成28年7月22日 午前八時
現地確認。猿のいたずらした後は見られなかった。くるみの木が大きく切られていたので、長谷総合支所、農林部長、池上さんに対応を相談。

7月27日 午前九時
第二回播種作業 山根さんよりメール「無事作業終了。次回は一ヶ月後に草刈り猪柵の修理、土寄せなどの作業が必要。来週くらいに信大はポット苗の定植も行うそうです、」感謝

8月2日 
長野朝日放送テレビ取材。草田アナウンサーと浦の圃場を見に行く。放送は9月3日午前十時半「信州スゴヂカラ」第一回第二回の播種作業分は順調に発芽。連日の夕立、雷雨が心配。

8月3日
井上先生よりメール。「本日、150個体の移植、異常個体の間引き、土寄せ、草かりをしました。順調。網の外側の壁の補強と除草作業は誰かにお願いします。

8月16日
開花宣言

8月19日
前日長谷地区に大雨洪水警報と土砂災害警戒情報が発令、現地確認。7月20日播種したところは、白い華が咲き始めていた。7月27日播種のところはつぼみ。被害はなく一安心。戸台川の谷は豪雨、三峰川の谷は少雨とわかった。

8月25日午前九時
猪避けの目隠し作業と除草作業。受粉を心配していたが、白い花の中を多くの蜂や虫が飛んでおり、一安心。鹿柵を利用して猪避けのトタンを設置。ナイスアイディア。台風の接近が予想され、そばの倒伏防止用に紐か網を張って補強することに。井上先生よりメール「ありがとうございます。毎週管理してます。」「台風雨が来たら危ないですね。杉島にそば畑発見しました。少し交雑するかもしれません。やむを得ない。」

8月26日 午後二時
そばの倒伏予防の紐張り作業。細い竹をきってきて、畝の通りごとに紐を張った。

9月7日 午後7時
長谷そば振興会設立総会 今後の在来種については、長谷そば振興会が中心となってすすめることとなる。組織的には、伊那そば振興会の傘下の組織とする。

9月10日
高遠公民館のジオ講座で浦地区を訪問し現地説明

9月28日 午前九時
そば刈り取り作業 井上先生、学生も参加し刈り取り。昔ながらの足踏み脱穀機で収穫。途中から雨が降り出したので、信大のビニールハウスに移動し、手作業を続行。井上先生よりメール「手帳を見たら8月16日開花、69日で黒化率90%以上でした。夏型の早生種との結論」

10月6日 井上教授「15キロ程度収穫できました。」
11月3日井上教授「明日BSプレミアム9時から新日本風土記にそばのことででます。なお、昨日シフターで良い種が選別できました。」「浦在来、3.8ミリの網を抜けた素晴らしく小粒の黒いきれいな粒もたくさんありました。突然変異は落としました。期待してください。」

11月24日
慰労会(試食会)収穫した在来のうち大粒の8キロを、壱刻とますや二店舗で計4種のそば切りに打ち、壱刻にて試食会。メディアや関係者約15名程度。

打った感想

壱刻とますやで、何十年ぶりにそば切りとなる在来を打ったわけですが、二人の感想は、水回しのときの香りが鮮烈。香ばしい香りが立ち込めて、明らかに他の種とは違うと共通していました。他の地域の在来も何種類か打ったがこれほどの香りは経験したことがない。だが、そば切りにして茹でたら相当薄まってしまった。これからの課題は、この個性ある在来種をどうやっ碾いて打つのかという点でしょう。

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